一人微笑んでいる財務省。  岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■8月某日 野田民主党自民党の消費税増税参議院可決を前にした早期解散か総辞職をめぐる政争は、国民に対して永田町の権力抗争の本質を分かりやすく見せてくれた。メディアは政局をつくることが、商売である。テレビは当然としても、新聞も週刊誌もそのクチである。しかし、今回の政局騒動は大山鳴動して鼠一匹で、ジ・エンド。結局、柔道もやっていたしぶとさでは定評のある野田総理が粘り腰で、谷垣自民党総裁を押し倒した形だ。野田総理の完勝、谷垣総裁の完敗である。だいたい、いまどき総裁を名乗る自民党のセンスも古すぎはしないか。赤尾敏愛国党総裁だって亡くなったし、日銀総裁も全くの軽量級ではないか。総裁を名乗りつつ、谷垣氏が押しに弱い人物であることは「加藤の乱」の時、涙を流して加藤の事を「大将」と呼んだ時点で終わっていると見るのが、永田町の常識ではないのか。結論を出した党首会談の前に開かれた民主党両院議員総会で、野田総理は解散権は大権であり、総理の専権事項であるとして、「解散時期を明言することはない」と言い切った。それでも「近い将来」の解散時期を「近い」に変えただけで妥協した谷垣総裁は,これで政治生命はほぼ終わったも同然だ。
  野田総理に早期解散も総辞職の気配もまったくなく、すでに来年度の予算着手も匂わせているし、樽床幹事長代理も任期いっぱい全うする発言をしている。輿石幹事長もそう思っているはずだ。自民党の中には今秋解散と勝手に思い込んでいる議員もいるようだが、勘違いも甚だしい。野田総理は支持率が落ちようが、スキャンダルが発覚しようが、来年8月一杯は総理を続ける気が満々だと見た方がいい。野田総理の後継候補を狙って、怪しい動きを続ける前原政調会長も、この野田総理の粘り腰に太刀打ちするには人間力不足である。実際、解散総選挙をやれば、野田民主党の惨敗は確実である。負けを承知で戦に突入するバカはいるまい。いや、戦前の軍部はそうだったか(苦笑)。野党5党が出した内閣不信任決議案もこれで否決確実で、政局は何事もなかったように国会は進行していくはずだ。離党者続出で瀕死の野田民主党だが、自民党公明党もそれぞれの微妙な党内事情を抱えており、決断力も実行力もない烏合の衆にすぎない。一人微笑んでいるのが、消費税増税を長期戦略に掲げて自民党から民主党、大手メディアまで粘り強く根回ししてきた財務省である。
 野田政権が生き残ることでプラスの側面はほとんどゼロといっていい。消費税増税だけではない。原発再稼働、オスプレイ配備、集団的自衛権の見直し、TPP参加問題、すべてにおいて野田政権の悪政を操作しているのは霞ヶ関、財界、米国政府である。オスプレイの事故率も修正され、死亡事故以外の軽度の事故を含めた修正値が打ち出された。やはり、オスプレイの事故率は高かったのだ。山口県岩国市だけでなく沖縄県民も大反対のオスプレイだが、全国各地の山間部での低空飛行訓練が計画されていることで、反対運動は全国に拡大する可能性もある。ただ、原発と同じく米軍と防衛省は過疎地域を選択しており、都市に住む人たちにとっては他人事になりかねないことだ。大飯原発再稼働で、毎週のように国会周辺でも大掛かりなデモが行われている。さすがの野田総理もデモ隊の代表と会談する方針を固めていたが、枝野大臣の官僚的な横やりで中止。東京電力福島第一原発事故発生時のテレビ会議の映像も、東電に都合のいい不完全公開で、ジ・エンド。本土復帰直前までベトナム戦争で使われた枯葉剤が、沖縄の米軍基地に貯蔵されていたという米軍関係者の間接証言も米軍の具体的資料で遂に判明した。東電も米軍も日本政府も情報隠しという、民意にそむく反民主主義的行為を平然と行うのが国意というやつなのだ。原爆を投下された長崎市長の平和・非核化宣言がむなしく響く政治状況という他はない。
2012.08.09