石原都知事のパフォーマンス 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■4月某日 石原都知事がワシントンで、「尖閣諸島は東京都が買う」「尖閣は東京が守る」と宣言したことが波紋を呼んでいる。現在は、尖閣諸島の中の魚釣島、南小島、北小島の三島だけは地権者は民間人。それを国が年間2400万円の賃貸料を払い、管理している。そのため、尖閣諸島には、住民はいないし、日本人の立ち入りも禁止されている。1895年の明治政府が閣議決定で日本の領有権を主張した後に、民間の実業家がカツオ節工場を経営し、当時は200人の工場労働者が魚釣島に住んでいた。しかし、カツオ節工場が経営危機で閉鎖になり、1940年以降は無人島となった。その後、日本は太平洋戦争に突入し、敗戦後は米国が沖縄を支配下において統治した。中国や台湾が尖閣諸島の領有を主張したのは、1970年以降、南沙諸島から尖閣諸島海域において石油などの海底資源が発見されてからのことだ。
 米国は、尖閣の領有権に関しては中立の立場。日本政府は実効支配しても住民の立ち入りを禁止した。そのため、日本人のタカ派政治家だった西村真吾議員や右翼団体日本青年社、中国や台湾の市民活動家らが勝手に上陸するという事件もあった。どちらも領有権を主張しての行動であった。今回の主役となった石原慎太郎氏もかつて尖閣への上陸を試みたことがあり、失敗に終わった過去もある。そのため、今回の尖閣諸島の買収宣言は、石原氏の悲願でもあった。米国のワシントンでそれをぶち上げた際も、政治的側面を考慮したのは確かだろう。この宣言の後、石原都知事は、亀井静香平沼赳夫らとの新党立ち上げを断念し、財界の支援で政治塾を立ち上げることを宣言した。松下政経塾や橋下大阪市長らの維新塾に触発された部分もあるだろうが、石原都知事としての存在感を示そうという行動の一つが尖閣買収と政治塾の立ち上げだろう。その意味においては石原都知事のパフォーマンスであるとの見方が出来なくもない。
 しかし、興味深いのは尖閣諸島の行政権は石垣市にあり、石原都知事は中山義隆市長に事前に相談していたことだ。中山市長は、前の革新市政だった大浜市長を破って当選した若手のタカ派。教科書採択問題で、石垣市竹富町、与那国で分裂状態になった事態の陰の仕掛け人とも目されている人物だ。先の北朝鮮の「人工衛星」打ち上げで、自衛隊沖縄本島の他、宮古島石垣島にPAC3を配備した時も、石垣市は協力的で、自衛隊員が実弾入りの武器を基地外で携帯することを認めた唯一の自治体だ。衛星打ち上げは失敗に終わったものの、沖縄本島那覇基地知念分屯基地の他、多良間島与那国島にも自衛隊員を駐在させ、イージス艦二隻が南西海上に待機するという防衛省の戦略シフトも既成事実化に成功した。自衛隊が、尖閣だけではなく、石垣島与那国島への配備を狙っていることは「防衛白書」でもわかる公然の事実だ。石原都知事の「尖閣は東京が守る」という意味も、自衛隊を常駐させようとの狙いがあるのではないか。
 だが、この尖閣諸島は最低で15億円程度の買収金額が必要であり、石原都知事が地権者との話し合いを進めていても、来年三月までは国との契約が残っている。更に、2億円を超える支出に関しては、都議会での議決を必要なのだ。石垣市議会では、中山市長の意向とは異なり、尖閣は国が買い取り、石垣市に引き渡せとの議決を行っており、沖縄県民の支持を得られる可能性は低い。沖縄県にすれば、尖閣問題の解決を曖昧なままにしながら、普天間基地辺野古移設意を押し付ける外務省・防衛省に対する不信感が強い。石原発言が外務省の交渉能力のなさを批判したことは事実だが、尖閣諸島を東京都に併合するという案に賛成する県民はほとんどいないはずだ。尖閣諸島自衛隊を常駐させても、憲法上、中国の漁船や監視船に武力攻撃できるわけでもないし、逆に中国側が武力攻撃するような事態になれば、被害を受けるのはまたしても沖縄である。東京都が普天間基地の移設先を引き受けてくれれば、考える余地があるかもしれないが(苦笑)。
2012.04.22