防衛省ぐるみのなりふり構わぬ選挙戦 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■2月某日 約3か月ぶりの東京は想定以上に寒かった。7年を超える沖縄移住で亜熱帯の気候に体がすっかり馴染んできたせいもあってか、東京での生活はもう無理だろうと実感する。特に、寒い冬の間は。冷温停止を宣言した福島第一原発で原子炉の温度が94・9度まで上昇したり、最悪の事態も放射能の危機も去っていない。いまだにメルトダウン後の炉心の実態も分かっていないのに、温度計が壊れている可能性もあるなどと、他人事感覚で語る東電や原子力保安院のいうことは信用しない方が賢明だ。それだけではない。一部の地震学者によると、近い将来、首都圏直下型大地震が発生するとの予想もある。そうなれば、過密化したマンモス都市は間違いなく壊滅的な大被害を受けるだろう。これじゃ、寒さだけじゃなく、東京生活からますます足が遠くなりそうだ。
 東京出張から沖縄に戻ると、宜野湾市長選挙の残念な結果が待ち受けていた。前宜野湾市長だった伊波洋一氏が約900票という僅差ながら敗北したのだ。伊波氏は宜野湾市長から昨年の県知事選に挑戦したが、現職だった仲井真知事に敗北した。それでも、革新系のエースとして4年後の知事選で捲土重来を期す予定だった。しかし、革新系の伊波氏の後継の安里市長が病気を理由に辞任してしまったため、急遽、市長選が開かれることになった。そんなわけで伊波氏は3年後の知事選ではなく、宜野湾市長選に再出馬することになったのである。
当選したのは、自民・公明党が推す保守系沖縄県議出身の佐喜真淳氏。宜野湾市長選公示直前に、真部朗沖縄防衛局長が、総務部人事課に命じて、宜野湾市に住む防衛局職員とその家族のリストを提出させ、真部局長による直々の「講話」なる選挙向けの集会が沖縄防衛局の局舎内で開かれたことが発覚。真部局長は沖縄防衛局長を更迭される騒ぎとなった。しかし、防衛大臣に就任した田中直紀氏が、相次ぐ失言や無為無策ぶりをさらけ出して、自民党から総攻撃を受けていた渦中ということもあって、真部局長の更迭を見送りにしたのだ。宜野湾市長選への影響を最小限に食い止めるという野田政権の思惑もあった。この沖縄防衛局の選挙介入事件もあり、知名度でも圧倒していた伊波氏が事前予想調査の数字においてもリードしていた。にもかかわらず、佐喜真氏が逆転勝利したのはなぜか。
 まず、伊波氏が敗れた前回の知事選同様に対立候補がともに普天間基地の県外移設を主張したことだ。伊波氏は一貫して普天間基地の即時閉鎖、国外移設を主張してきた人物だ。ところが、保守系の佐喜真氏は以前は仲井真知事同様に辺野古基地推進派だったが、今回は普天間基地の固定化に反対し、県外移設を求めると主張した。自民党本部はいまだに辺野古新基地建設一辺倒だが、沖縄の自民党は県外移設なのだ。自民党は政権から離れたこともあるため、気楽で場当たりの選挙戦に鷹揚なのだ。なりふり構わずとも勝てばいいという選挙戦術で争点を隠す選挙戦を展開した。その一方で、佐喜真氏は普天間基地を逆手にとって防衛予算を沖縄市嘉手納町なみに大幅アップさせるべきと訴えていた。だからこそ、真部局長が裏で応援を買って出たのだ。辺野古基地建設に最後の望みをかけた防衛省ぐるみのなりふり構わぬ選挙戦の勝利といえる。
  ちなみに民主党沖縄県連はどちらも支持しない自主投票の立場をとった。県連代表代行の喜納昌吉氏は「今回は伊波支持で行く」と筆者に語っていたが、最終的に辺野古推進派の民主党本部から横槍が入ったのだろう。沖縄選出の民主党議員二人は伊波氏を支持した。県外移設の公約を投げ捨て沖縄県民を裏切った民主党政権のおかげで、沖縄の政治は指針を失って漂流している。これでは6月の県議選も防衛・外務官僚の暗躍によって与野党逆転の可能性が強い。経済は無視できないにしても、原発同様に基地による恩恵頼みから抜け出せず経済的自立を阻害されている沖縄の現実が悲しい。しかし、実利を振りかざす政治家や官僚たちのアメと恫喝の呪縛を断ち切らない限り、沖縄の将来のビジョンは絶対に描けないはずだ。保守系の総力をあげたネガティブキャンペンがあったとしても、その点は革新系の力量不足だったことも否めない。出戻りで当選できなかった伊波氏も次の知事選の目を失ったと見るべきだし、革新系が閉塞感を打破できるには相当の決意と努力が必要だろう。

2012.02.13