世界はまさに史上類を見ない大きな過渡期で新時代に突入しそうな雰囲気ではないか。岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■11月某日 野田総理のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加の是非で国論が二分される中、メディア企業においても久々のドタバタ劇が展開された。TPPのドタバタぶりも面白いが、こちらも見逃せない讀賣グループの出来事だ。清武利一球団代表が文部科学省において、讀賣新聞社グループ会長にして讀賣巨人軍の代表権のない渡辺恒雄会長が独断でヘッドコーチなどの人事を進めていることを内部告発して、組織としてのコンプライアンスがないとして記者団の前で糾弾会見をやったのだ。讀賣グループの老害ともいわれる85歳の独裁者でドンとも呼ばれるナベツネに対して、これまで忠実な部下だった清武代表が解雇を覚悟してまでなぜ告発に踏み切ったのか。清武球団代表は、岡崎ヘッドコーチらの留任人事をナベツネ本人に了解してもらい、契約更新の手続きを進めていた。そこに、ナベツネが介入し、来年は江川卓ヘッドコーチで行く方向で交渉も進めている、と宣告されたというのが火種の発端だ。
 讀賣といえばナベツネといわれるほどの、讀賣メディアグループを率いる絶対的な独裁者。普段からベランメー口調で取り巻きの番記者に傲慢な物言いをすることでも有名。背骨もいくらかまがり始めたこの独裁老人に心の中では批判的な見方があったにせよ、讀賣内部から反乱の手が上がることはなかった。それほど別格の権力者だった。創業者の正力オーナーや務台光雄以上に、である。ナベツネ讀賣新聞の紙面を使って憲法改正をぶち上げ、民主党小沢一郎自民党福田康夫の二人に大連立構想を持ちかけたこともある政界フィクサーでもあった。権力の源泉と鳴ったのは政治記者時代の大物政治家・中曽根康弘からCIAエージェントでもあり、ロッキード事件でも連座された大物右翼の児玉誉志夫らとの交友がつとに知られるところだ。
 「噂の真相」としてはジャーナリズムの社会的機能を持つメディア企業人としては恥ずべき人物との位置づけだったし、大問題となった個人情報保護法論議において、テレビや新聞、通信社同様に、「雑誌メディアやフリーも適用外にすべき」という意見に対し、ナベツネ氏は「週刊誌はいらない。新聞とテレビがあれば十分だ」と言い放ったこともある。まさに、老害の典型的人物だが、清武球団代表の意を決した内部告発にもかかわらず、桃井オーナーが「清武代表も記者会見をオーナーの僕に相談なく独断で行い、コンプライアンスがなかった」と批判してナベツネに迎合の姿勢を見せた。結局、岡崎ヘッドコーチの留任も決まり、せっかくの讀賣内部抗争も清武一人の反乱で終息しそうな雲行きだ。しかし、今回の清武反乱で、人気下降ぎみのプロ野球のフアン離れがより一段と進むのは確実だろう。有力選手のメジャーへの流出で、面白くなくなったことが一つの分岐点だった気がするが、これもプロ野球界のTPPみたいなものか。
 それにしても、「巨人,大鵬、卵焼き」といわれた昭和が終わり、平成の時代もそろそろ終わるかもしれない気配だ。平成天皇が気管支炎をこじらし39度近い熱が下がらないため、入院生活が続いているからだ。抗生物質もきかないというのは危険な兆候かもしれない。メディアはXディで準備を始めたのだろうか。次の元号はどうなるのか。巨人も老害体質を晒し、大相撲も相次ぐスキャンダルで国民の人気は凋落。卵焼きはともかく、TPPになれば、生卵のかけごはんも食べる機会が少なくなるはずだ。福島原発の未曾有の大事故、帝国主義の本家・米国NYでの反格差運動の盛り上がり、ギリシャ危機に端を発したイタリア危機で、EU全体に危機の連鎖を見せ始めている。国家の壁を壊すTPPに日本の野田「松下政経塾」政権は踏み切る気合十分だ。世界はまさに史上類を見ない大きな過渡期で新時代に突入しそうな雰囲気ではないか。
2011.11.16