懲りない軽薄メディアが国をやがて滅ぼす。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■9月某日 在沖米総領事に就任したアルフレッツド・マグルビー氏が浦添市にある総領事館で就任の記者会見を行った。国務省出身で日本語が達者な親日家、というのは見せかけだけで、「普天間は特に危険ではない」「普天間は世界一危険な基地という認識が独り歩きしている」「普天間の住宅密集 不思議だ」「辺野古への可能性が一番あり、一日も早くそうした方がお互いにいい」と言いたい放題。県民は怒り心頭だ。普天間基地が「世界一危険な米軍基地」といったのは元国防総省ラムズフェルト長官であり、普天間基地を直接視察して見た印象を言葉として発しただけではなかったのか。むろん、辺野古移設を想定した政治的な根回し発言だった疑いはあるが、普天間基地が危険であることは、世界中の米軍基地を熟知しているはずの国防長官の認識は正解だったといっていい。大先輩の言った発言が独り歩きするというのを、新総領事は否定しているのか、それとも単に知らなかっただけなのか。記者会見で記者たちはそこを突っ込まなかったのだろうか。
 前任のレイモンド・グリーン総領事はワシントンDCの国務省アジア太平洋部経済部長に栄転したが、沖縄での実績は可もなく不可もなしのゼロ。米国の意向通りに任期を全うしただけ。というのも、その前任のケビン・メア総領事も国務省の日本部長に栄転したが、沖縄は「ごまかしとゆすりの名人」「ゴーヤもそだてられない怠惰な沖縄県民」などと発言していた事実が共同通信のスクープとして取り上げられたこともあり、最終的に日本部長を解任される事件があったからかもしれない。ケビン・メア氏は総領事時代から沖縄差別の言動を繰り返しており、舌禍事件を起こす可能性は以前から指摘されていた。夫人が日本人ということもあって、日本語もうまく、親日家ともいわれていたが、内面を剥がせば、上から目線の沖縄差別論者だった。
 つまり、今回就任したマグルビー総領事も含めて、沖縄に派遣される国務省の役人は、沖縄を植民地くらいにしか認識しておらず、自らは米国政府に派遣された植民地の総督のつもりなのかもしれない。総領事の発言は判を押したように、国務省の対日政策をオウム返しに繰り返すだけなのだ。定例なのだろうが、総領事が記者会見を開いても別段新しいことを披露するわけでもない。どうせなら、総領事の会見じたいを拒否して、総領事の存在を完全に無視したらどうか。働かないという意味では日本の外務省沖縄事務所や沖縄防衛局も県民の民意に答えるという意味では存在価値すらない。むろん、カネをばら撒いて、基地対策を行うという露骨かつ古典的手法だけは、彼らの最後の存在意義なのだろうが。
 米軍基地とも共通する国策としての原発にも問題ありだ。さすがに、毎週官邸周辺をとりまく市民デモに象徴される国民の脱原発指向はますます強まっている。財界や官僚、御用学者や電力会社を敵にできない大手メディアは「原発ゼロ」の民意に対して否定的だ。2030年には電気料金が3倍になるし、予算も50兆円かかるという大本営発表を鵜呑みにして国民にオドシを賭ける。しかし、福島第一原発廃炉にするまでの費用、原発被災者、除染作業や中間貯蔵施設の建設、青森県むつ市に貯蔵されている原発のゴミの永久処理などを考えれば、気の遠くなるような時間と費用を要するはずだ。仮に再稼働した大飯原発が再びメルトダウンしたら、日本は破滅・崩壊し、将来は絶望的だ。原発イチオシの財界や官僚にあるのは目先の利益だけで、将来にわたる人間が第一のビジョンは全く描けていない。原発という国策を撤回して、再生エネルギー転換を国策の根幹に据えて、最大限の国家予算を先行投資するくらいの政治的な決断力のある政治家は見当たらない。自民党は、過去の人物が表に出てきて、いささかうんざりする既得権益派の総裁候補たちばかり。民主党も、死に体の野田総理よりも見栄えのいい細野豪環境大臣を担ぐ動きもあるが、細野大臣の真摯さは買うにしても、結局のところ官僚に操られているだけの小粒の政治家である。大手メディアは、政争のもつれで休会となった国会や政治の根源的な問題にはいっさい関心を示さず、代表選や総裁選、維新の会の「政局話」に完全にシフトしている。懲りない軽薄メディアが国をやがて滅ぼす。
2012.09.06