財務省にとっては、10数年も動かなかった消費税増税の千載一遇のチャンス 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■5月某日 乾坤一擲の野田総理と小沢元代表の会談が持たれた。輿石幹事長の仕切りと仲裁で民主党内の消費税増税をめぐる意見対立を解消しようというわけである。しかし予想通り、会談は平行線のままに終わった。次の会談が持たれるかどうかも不明だ。小沢元代表の主張は民主党政権交代時の公約である「政治主導による霞が関改革」や「国民の生活が第一」という原点にもどれというものだ。しかし、野田総理仙谷由人政調会長代理らの増税推進派は小沢元代表の主張とは真逆で、財務省を中心とした霞ヶ関官僚依存路線だ。会談前から野田総理の意を代弁した前原政調会長は「野田総理が妥協することは100%ない」と断言していた。会談前から挑発的に喧嘩を売るみたいなもので、会談すること自体を無化するような威圧的で権力的な前原発言と断じざるを得ない。
野田総理はこれまで消費税増税論議は党内でキチンとやってきたし、閣議決定も通して正式に法案として提起したものだと力説する。だから、採決段階になれば党議拘束をかけて除名も辞さないといいたいのだろう。しかし、形式だけ踏んで、民主党執行部の意見に従えと強権的に言っても、自分たちを支持してくれた有権者を裏切るわけにはいかない議員も多いし、国民世論も消費税増税反対派が過半数を超えている。そもそも民主党政権交代で公約した「消費税の4年間凍結」という方針を最初に撤回したのは、国際会議に出席した直後の前総理の菅直人だった。その時の言い分が「日本のギリシャ化を避けるために消費税増税が必要」というものだった。そのため、民主党は直後の参議院選挙で大敗し、現在の衆参のネジレを作り出した。元凶は菅前総理だったことを忘れてはなるまい。
本来ならば、ここで民主党は、政権交代に期待した有権者の気持を真剣に斟酌すべきだった。ところが、菅政権下で財務大臣を務めた野田総理も財務官僚にいち早く洗脳されて「日本のギリシャ化を避けるべき」との論法で消費税増税にのめり込んで、勢い余って政治生命を賭けるとまで言い切ってしまった。背後では同じように、「日本のギリシャ化を避けるべき」との立場にとらわれてしまった仙谷由人政調会長代理や前原政調会長が下支えしていた。日本のギリシャ化については、財務省の得意のオドシ文句との見方が強い。というのも、ギリシャ危機の元凶となった国債の暴落は、外国資本に買い占められていたものが一斉に売りに出されたことで起こった危機である。
しかし、日本の国債は大半が日本の個人や企業が所有しているため、ギリシャの二の舞にはならないというのが、まともな経済学者の意見である。国民に危機を煽り、その期に乗じて悲願の消費税増税を達成しようというのが財務省のシナリオなのだ。経済音痴では定評のある安住議員を財務大臣に据えたのも、財務官僚にとっては操り易い人物に他ならないからだ。防衛大臣に同じく防衛音痴の田中直紀を就任させたのも、したたかな防衛官僚にとってはロボットのように操り易い人物だからである。
財務官僚のミエミエの野田総理操縦法の背景には自民党が公約で消費税10%アップを掲げていることもある。財務省にとっては、10数年も動かなかった消費税増税の千載一遇のチャンスなのだ。今のところ、野田政権と自民党のメンツ争いで、簡単には連立は出来ない状況だが、民意を無視した政党間の野合による大増税は国民からしっぺ返しを食うことになるだろう。そして、特筆すべきは、大手メディアが財務省に乗っかって、消費税増税の応援団と化している事実だ。まさに増税のための大本営報道だ。小沢元代表野田総理との会談で提起した、財政のスリム化、大震災復興政策、「社会保障と税の一体改革」の社会保障に関するビジョンの欠如、景気回復や経済の再生の議論もないままに、とにかく消費税をあげろ!という財務官僚の使い走りのような政治家の言動にだまされてはいけない。消費税増税は、確実に弱者イジメであり、階層間の格差を広げる一方の悪政だからである。
2012.05.30