政治家は自己保身だけで生きている人種なのだ。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■3月某日 野田政権が消費税増税閣議決定した。この強引なやり方により、連立を組む国民新党は分裂の事態に。亀井静香代表は、社民党を含めた連立政権発足時点で、消費税は今後4年間手を付けないという連立の条件にこだわり、野田総理の直接要請を最後まで拒否した。筋を通したのはこの亀井代表と、亀井亜紀子政調会長。残りの6名の国民新党議員は連立維持に走り、党の分裂となった。金融大臣の自見庄三郎が大臣の椅子に執着したのは分かるが、下地幹郎幹事長も野田政権の意を受けて、亀井代表の説得に回る始末。国民新党幹事長として、NHKの政治討論番組などで名を売ったこともあり、国民新党幹事長という役職にこだわったのだろう。政治家なるもの、結局は権力の座と自己保身に汲々としている実態が曝け出された形だ。
 この下地氏は沖縄一区の選出だが、普天間移設問題では嘉手納基地統合案、キャンプ・シュワブ陸上案、安波地区への新基地建設という県内移設を次々と主張して、県民から顰蹙を買った人物だ。今回も、亀井代表に反旗を翻し、連立への残留を画策した。今後、国民新党の主導権をめぐって下地VS亀井代表の争いが展開されることになるはずだ。下地幹郎幹事長が国民新党の主導権を握れば代表の座につき、亀井代表と亀井政調会長は追放されるかも知れない。消費税増税という裏切行為に加担した連中が大きな顔をする国民新党に先はない。野田政権の強行突破で、民主党内の小沢一郎に近い副大臣政務官4人も抗議の意思を示して辞任した。これから衆参本会議で消費税増税案が可決されるかどうかはまったく不透明だ。自民党の一部が賛成に回り、小沢派が反対するという大連立、政界再編成の可能性も十分だ。
 今回、野田政権に筋を通した亀井代表はエライ。郵政民営化の見直しでも裏切続けられてきた亀井氏。元警察官僚だが、死刑制度に反対したり、消費税増税の前に景気対策をすべきというのが持論で、庶民感覚も持ち合わせている政治家だ。筆者はウワシン編集長時代に、亀井氏に名誉棄損で二回訴えられたことがある。その時は、亀井氏が二度とも自分から取り下げて、裁判は終わった。ウワシンに書かれた自分のスキャンダルが他のメディアに波及することを恐れてのメンツ提訴だったのだろうが、二回目の取り下げの後、知人のジャーナリストを通じて、「申し訳ないことをしたので一席持ちたい」との申し入れがあった。亀井氏御用達の赤坂の「門松」という高級料亭で接待を受けた。その席で、亀井氏は、初対面なのに筆者の肩をポンポンと叩き、「オカちゃん、悪かったな。これを機会によろしく」としきりにビールをついでくれた。政治家らしい人たらしぶりを十分に痛感させられた。
 その料亭では、亀井氏は後援会関係者らしき人物との会食を三部屋で掛け持ち推していた。にもかかわらず、筆者の部屋に陣取り、生バンドで「兄弟仁義」だったと思うが、お世辞にもうまくはない、例のダミ声をはりあげて調子はずれの演歌を披露してくれた。生バンドの三人組の給料も亀井氏が支払っていたという。許永中との深い関係や利権政治家の側面も持っていたが、義理人情に厚く、個人的に絵画も手掛け、二科展入賞者の腕前を持つセンシティブな側面もあった。今回の連立離脱発言で最後までブレなかった亀井氏の信念、それを裏切った下地幹事長、自見金融大臣の節操のなさが際立っていた。亀井氏とはそれ以来会ってないが、今回の件で筋を通した亀井氏のことを思い出してしまった。政治家として問題点もあるだろうが、こうした筋を通し、かつ庶民派としての信念を曲げない政治家が少なくなっている永田町の不甲斐なさを改めて思い知らされた。政治家は自己保身だけで生きている人種なのだ。
2012.03.31