沖縄に海兵隊の抑止力は存在しない 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■2月4日(木曜)の沖縄タイムスには仰天した。一面トップで「米、辺野古断念へ」「議会に意向伝達 普天間日本と再協議」という極太活字が躍っていたからだ。同紙の米国特派記者・平安座純代記者のスクープである。見出しによると、在沖海兵隊のグアム移転計画をめぐり、米国防省が米議会との水面下の交渉で、普天間飛行場の名護市辺野古への代替移設建設を断念する意向を伝達していたことが、3日、分かった。同飛行場の移設・返還については日米間協議をやり直す見通し。複数の米議会筋が本紙の取材に対して明らかにした。」というもの。
 ホントだとすれば、大スクープである。以前から米軍は中国の軍事力拡大を背景に沖縄に集中する海兵隊の拠点をアジア・太平洋地域に分散させる必要性がたかまったとして、2000から2500人の規模の部隊に再編成。グアム、ハワイ、オーストラリア、フィリピンなどにネットワーク方式で移転させる案を検討してきた。オバマ政権はイラク、アフガン戦争で国防予算が破たんしつつあり向こう10年間で国防費約4900億ドルと海兵隊委員約2万人を削減する方針を打ち出した。更に、米議会は巨額の費用を必要とする辺野古新基地は政権の方向性に逆行する動きだとして、必要性の是非をめぐって、今週から議会で追及する構えを見せていた。
 こうした動きは以前からも部分的に見受けられた。特に、米上院のレビン軍事委員長(民主)、マケイン筆頭委員長(共和)、ウエッブ外交委員会東アジア太平洋小委員会(民主])らは、「計画は非現実で実現不可能」として移設を含めて現行計画の見直しを求めていた。むろん、辺野古は断念しても、嘉手納への統合案の可能性も消えたわけではない。しかし、これまで、普天間の移設は代替施設建設とパッケージと主張していたことを大幅修正し、グアム移転と普天間の移設が切り離されることになった。嘉手納以南の米軍基地もこれまでのパッケージ論を放棄した米軍の方針変更の意味するものは大きい。グアム移転計画は在沖海兵隊の8千人をグアムに移転させ、その費用の6割を日本側に負担させる計画だったが、グアム側のインフㇻ整備などの受け入れ態勢が整わず、米軍としては、グアムに4500人を移し、残り4千人を豪州に移したり、フィリピンやハワイをローテーションさせたりする方針のようだ。
 こうした案はこれまでも日本の辺古基地反対派や評論家が指摘してきたとおり、沖縄に海兵隊の抑止力は存在しないことを米軍じたいが認めたも同然である。これで、バツが悪いのは、これまで辺野古新基地をごり押ししてきたオバマ大統領やクリントン国務長官、日米の防衛・外務官僚たちだろう。むろん、この日米の国策で鐘や太鼓をたたいて煽ってきた日本の大手メディアしかりだ。むろん中には普天間基地が固定化されると大騒ぎする連中もいるが、世界一危険な普天間基地をこれ以上野放しにすれば、米国も日本政府も国際的な世論の顰蹙を買うことになるだろう。抑止力としての意味がないことを米国が認めた以上、普天間に居座る理由もなくなる。せいぜい、非常用の空港確保としてしか意味がないのではないか。
 しかし、わが国のおとぼけ防衛大臣田中直紀はこうした事実すらも認識していないのだから、防衛・外務官僚が大臣に話を上げないで米国側と極秘理に話し合いを進めているのだろう。おそらく、防衛相として金には糸目をつけないから、何が何でも辺野古に新基地を、と哀願しているのではないか。先日の環境アセスへの防衛省天下りのすっぱ抜きといい、今回のタイムスの辺野古断念のスクープいい、沖縄地元紙二紙のスクープ合戦が激しくなり、お互いに切磋琢磨する体制が築かれることは沖縄にとっては実に喜ばしい限りである。
2012.02.06