「最悪、最低の布陣」 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■1月某日 年明けの沖縄は曇り空が多く、気温も低い。昨年の11月末からの天候調査によれば、沖縄の日照時間は5割減だという。寒さを体感するだけではなく、農作物の生育にも大きな影響を与えるのではないか。世界的な不況の中で、日本も大震災からの復興や原発事故の長期的な事後処理対策が待ち受けている。新年とはいえ、おめでとうという言葉を軽々につかえない暗い年の幕開けだ。例によって、今年も沖縄の成人式の風景を「週刊文春」が取り上げていたが、不肖・宮嶋カメラマンによると、この荒れる沖縄の成人式の取材はうんざりで、来年は来ないそうだ。いいことである。メディアが注目するから、若者が過剰にメディア受けを狙ってエスカレートする側面が強い。メディアが無視すれば、目立ちたがり屋たちは、意気消沈するしかない。暴走族とメンタリティは同じなのだから、メディアは無視すればいいのだ。だいたい、沖縄に移住して7年経つが、荒れる成人式の光景なんて、俺は一度も見てないぞ。
 荒れる成人式ではないが、野田内閣の内閣改造もメディアが騒ぎすぎだ。政治家は目立ちたがり屋が圧倒的に多い人種だ。参議院で問責決議が出された一川防衛大臣と山岡消費者担当大臣の交代は予定通りだったわけで、大騒ぎすほどのことでもない。このまま、この二人の大臣が居座りを続ければ、野党が審議拒否する作戦に出る可能性があるので、避けられない当然の内閣改造だった。二人の大臣に弁解の余地はない以上、誰しも納得できる交代劇だった。問題は、新しい大臣の顔ぶれだ。防衛大臣田中真紀子の旦那・田中直紀が指名されたが、適材適所の人事とは到底思えないし、防衛に関しても一家言ある人物とは思えない。小沢一郎に配慮した人事とのまことしやかな解説も出たが、ホンマかいな?である。どうせ、防衛官僚にがんじがらめにされて、日米合意=辺野古新基地推進しか選択肢はないはずだ。外務官僚に潰された経験のある田中真紀子が、旦那にハッパをかけて防衛官僚と正面から闘う姿勢に期待したいが、無理だろうな。新大臣に選ばれた松原仁国家公安委員長小川敏夫法務大臣平野博文文部科学大臣にも期待は持てない。平岡法相の更迭は死刑制度に懐疑的だったし、中川正春八重山教科書問題で指導力のなさを見せたが、平野新大臣は早くも竹富町の教科書は有償を宣言している。松原仁国家公安委員長拉致問題を担当することになるわけだが、金正日の死去で流動的な北朝鮮の国内事情を思えば、この問題で進展があるとは思えない。
  今回の閣僚人事で目玉とされた岡田克也副総理兼社会保障と税の一体改革大臣も、メディアが期待するほどにリーダーシップがある政治家ではないことは、これまでの選挙に弱い幹事長や対米追随の外務大臣時代の働きぶりを見れば一目瞭然だ。メディアは騒ぎすぎである。副総理にしては軽量級すぎる。むしろ、頑迷な性格が裏目に出て、党の分裂を促進させる可能性すらある。この岡田人事を裏目読みすれば、前原政調会長野田総理の冷たい関係が間接的に影響しているはずだ。前原氏は八ッ場ダムや問責決議の取り扱いで野田総理と対立する局面があった。野田総理としては、ライバルでもある前原政調会長よりも岡田克也をとって、不退転の決意である消費税増税のために政権の命をあずけたつもりではないのか。しかし、岡田副総理にそれだけの政治力があるとは思えない。野田総理がいくら「最善、最強の布陣」と力説しても、経済音痴の安住が財務大臣で留任するようじゃ、「最悪、最低の布陣」と断じるしかない。メディアが総じて野田総理や岡田副総理に好意的なのは、おそらく財務省の消費税増税への援護射撃とみて差し支えないだろう。恣意的な世論調査も含めて、である。
  話は変わるが、「噂の真相」の副編集長をつとめた川端幹人が「タブーの正体!」(ちくま新書)を書いた。ウワシン時代のエピソードも随所に盛り込まれており、面白いので一気に読んだ。元ウワシン読者には必読の書と推薦しておきたい。佐野眞一氏も三国連太郎人生を描いた「怪優伝」(講談社)と孫正義の半生を描いた「あんぽん」(小学館)と立て続けに新刊を出した。東北の震災地や沖縄を訪れつつ、旺盛かつ精力的な執筆活動ぶりに敬意を表したい。
2012.01.14