この国は一体どうなってしまったのだろうか。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■4月某日 北朝鮮が今月12日から16日の間に金日成生誕100周年を記念して人工衛星を打ち上げる国家プロジェクトを宣言したことで、日本政府は過剰なまでの「衛星と称するミサイル」迎撃のための大々的な軍事配備を進めている。北朝鮮は衛星打ち上げに際し、米国をはじめ専門家の招聘を呼びかけている。先の米朝会談の席上でも、北朝鮮は米国に衛星打ち上げを通告したとされている。衛星のルートも石垣島上空を通過し、フィリピン東海上に落下することも明らかにしている。衛星を打ち上げるという北朝鮮の主張が正しければ、他国があれこれクレームをつける必要はない。宇宙は誰のものでもどこの国のもでもないし、衛星はどこの国でも打ち上げる権利がある。
 ところが、日本ではこの北朝鮮の衛星打ち上げを「衛星と称するミサイル」であると断定し、国を挙げての緊急非常体制を敷き、破壊命令も出した。特に衛星が通過する沖縄方面では、本島の那覇基地、知念分屯地基地、宮古島石垣島にPAC3を配備し、南西海上にはSM3を備えたイージス艦を配備。与那国や多良間には自衛隊員も配置した。特にPAC3配備に関しては自衛隊員が実弾を装備した銃を携行する方針まで打ち出した。北朝鮮の衛星[ミサイル]技術は未熟であるので、どこに飛んで行くかもわからないというので、市ヶ谷の自衛隊本部にもPAC3を配備し、日本海にもイージス艦が配備されている。沖縄だけでも自衛隊員の本土からの派遣は950人に及ぶという。
 この件については本日発売の『琉球新報』の「沖縄幻視行」の連載で詳しく書いたのでこれ以上は書かないが、今回の緊急配備は防衛省と政府主導による、沖縄を中心とした南西海上における自衛隊の常駐化と非常時の訓練を兼ねた国策と断言していい。そのことを知ってか知らずか、日本の大手メディアも関連自治体も自衛隊の緊急配備に賛意を表明しているのだ。もし、北朝鮮の衛星が何事もなく打ち上げに成功したら、自衛隊が今回の仮想敵訓練における膨大な予算の無駄遣いも、結局は国民の負担である。
 この一点においても、消費税増税閣議決定した野田政権の将来に負担を先送りしないという綺麗ごとにはうんざりである。連立を離脱した国民新党のクーデターと分裂劇にもうんざりだった。特に、大臣の椅子に執着した自見金融大臣にもうんざりだが、自己保身のために消費税増税を選択した下地幹郎幹事長にもがっかりだ。日本一所得の低い沖縄で消費税増税を実施したら、県民のブーイングは目に見えているのではないか。下地氏は普天間の移設先に関しても一貫して県内移設を提案している。県民に支持されて県民の為に働くべき政治家が県民の意思を平然と裏切る――それが政治家の本質なのか。
 野田総理大飯原発の再稼働に露骨な色気を見せはじめている。当初は周辺も含めた自治体の同意を前提にしていた枝野経産大臣もその後軌道修正し、拙速な原発再稼働の本音を見せ始めた。3・11以前ならともかく、あれだけの被害を発生させた福島第一原発の事故の真相解明も廃炉への道筋も全く見えない中で、再稼働が支持されると思う神経がよく分からない。野田政権は3・11以前からベトナムなどへの原発輸出の方針を掲げており、財界や産業界の強い要請もあるのだろうが、財界の言いなりの政治の怖さは、松下政経塾出身者お坊ちゃんたちには理解不能なのかもしれない。
 野田政権が意欲を示す消費税増税原発再稼働、TPP推進、辺野古新基地建設、すべて財界の主張そのものである。戦前の軍国主義の構造に似ていやしないか。まさに亡国内閣と断言してもいい。タチが悪いのは、その野田政権を裏で支援している日本の大手メディアである。いわゆる体制翼賛だ。この国は一体どうなってしまったのだろうか。

2012.04.07